2008年7月12日土曜日
『日記』
『ポルノグラフィア』の訳者あとがきに引用してある、
ゴンブロヴィッチの日記の一節が、気に入ったので。
<<わたしはエロティックでない哲学を信じない。私は非セックス化された思想を信じない……
ヘーゲルの『論理学』は肉体とある距離を保つことなしに着想され得たと考えることはむずかしい。だが、純粋な意識は、再び肉体のなかへ、セックスのなかへ、エロスのなかへと浸られるべきものであり、芸術家は、哲学者を、あらたに魅惑のなかに投げこまねばならない>>
なんてこと。
私は自分の身体から逃げられないこと、
この肉体を持っている限り、
責任を負わなければいけないと思っていたこと。
それを肯定してくれるんですか?
この私は、女という変えられない肉体の中の現象なのだと、思いますか?
この場合、「エロス」とはどう解釈すればよいのでしょうか。
肉欲?物欲?
男と女は、一組で完璧であるということ?
もっと、この著者のことを知りたい。
しかし、もっと問題なのは、
1967年7月の時点で、同じ一節を、
青い万年筆でマークしている人がいるということ。
同じ万年筆でサインもしてあるし。
なんて読むかわからないし。
誰だろう。
もう、41年も昔のことだけど、
こんな素敵な本の上で会えてうれしいです。
2008年7月11日金曜日
『ポルノグラフィア』
大学の図書館で、紙の匂いがする本を発見。
河出書房の人間の文学シリーズの26。
1967年の初版本。
『ポルノグラフィア』 ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ著 工藤幸雄訳 河出書房
あれ?
これ、結構いい古本なんじゃない?
『春本』なんて題名の本が、ただのエロ本であるわけがない。と確信して。
装丁もかわいい。
鼻血が出るタイプのエロじゃなくて、
よだれが出るタイプのエロ。
はい。大好きです。
「目の前をゆく彼女の動きは、ある種の方法で少年とかかわりをもっているようにも見える。おなじく群衆にもまれながら、すぐ近くでもがいている彼の体の動きにひそかに答え、ささやきかわすかのようだ。本当に?目の迷いではないか?(中略)
彼女の中のすべてが(彼のために)存在していた。少しはなれて、人びとの間を平静に歩いている少年も、じつは彼女の方に惹かれ、彼女によって緊張している。昂然と、あたりかまわず、しかも落ち着きはらって群衆に混って進んで行く、自分自身に惚れこみ、憧れながらあれほどまで無関心なさま!ああなるほど!そうか!一目見たときから私を圧倒した彼の秘密が、いまこそ分かった。」(p.32)
「私には分かっていますよ、そうすることは彼らにとって、あまりにも完全すぎるから。あまりにも完璧すぎる。
不完全が完全になる、これが鍵です!
偉大なる神よ!あなたは完全そのものだ!だが、あれはあなたよりはるかに美しい、私はこの手紙で、あなたを否定します。」(p.182-183)
「『失礼!sex appealのことを考えていたんです。普通そう呼んでいるものを。二人がいっしょにいるのを初めて見たとき……一年も前ですが……すぐに気がつきました。セックス・アピール。引力、性的引力です。(中略)
いまになって、それがもしかしたら――私の想像以上に、何よりも悪いものではないかと恐ろしいのです。(中略)
二人は地面に倒れた……どうも違う、普通の動きではありません。それからすぐ起き上がった――これも違う。そうして立ち去る、やっぱり違う。あれは何です?何の意味です。ああいうもんじゃありません!』」(p.208-209)
そう、不完全だから美しい。
完全に憧れ、自分の不完全さの魅力に気づかずに、
堂々と不完全を人目に晒している。
こんなにも、人を楽しませている事も知らずに。
その無知もまた美しい。
もちろん古本屋さんに注文しました。
2008年7月2日水曜日
『歯とスパイ』
随分前に、ロシア文学目録として、
沼野恭子の『夢のありか』(作品社)を買った。
巻末の東欧文学の書評の中で、目に留まったのが、
『歯とスパイ』 ジョルジョ・プレスブルゲル著 鈴木昭裕訳 河出書房新社
プレスブルゲルはブダペストに生まれ、
19歳の時、ハンガリー騒乱の際にイタリアに亡命。
ローマにおいて、演劇や映画の脚本、小説で活躍しているようです。
題名と、訳者が<歯覚小説><歯想小説><歯科医小説>と述べたように、
この本のほとんどが、歯、歯磨き、歯痛、抜歯、歯科医に関すること。
この本は、精神分析学会会員(と思われる人物)G・Nの所に、
S・Gから送りつけられた原稿を、G.Nが年代順に整理し、出版したものである。
原稿の著者は、S・Gと友人関係にあるということになっている。
歯の一つ一つは、持ち主の人生である役割をし、
世界(時に神)と主人を結びつける重要なものである。
ある歯は、ある一人の女性への恋心を象徴し、
ある歯は、東アジアの大国の革命家の死を、主人の身体に刻む。
どうやら語り手は、スパイらしいが、どんな仕事をしているかは分からない。
名前も、わからない。
歯痛と治療の合間に、語り手の生活がさし挟まっているような話。
読んでいて、治療済みの歯が痛み出すような話。
登録:
コメント (Atom)